投資および資金調達に関する理論や企業価値,資産価格に関する研究は,1950年代以降ファイナンスの分野において盛んに報告されており, これまで,企業の資本構成に関する理論(Modigliani, Miller),資本資産評価モデル(Sharpe)やポートフォリオ理論(Markowitz), 派生証券価格理論(Black, Scholes, Merton)など優れた理論が提案されてきました.これら伝統的理論の多くは,市場の効率性や合理的な意思決定などを前提とし, 提案されてきたものであり,これらの理論の貢献により金融に関する理論,金融システムは大きく進歩してきました. 一方,このような伝統的理論の前提条件に対し疑問を投げかけた行動経済学(Kahneman, Tversky)や, 最先端の情報技術,人工知能技術を用いた議論なども行われており,ファイナンス分野も新たな展開をみせつつあります.
近年,社会およびビジネスなどにおいて,情報の果たす役割は高まっています. そのような中,情報技術を活用した研究の重要性は増しており,ファイナンス,経済学,経営学などの分野においても, 人工知能,機械学習,自然言語処理技術,システム科学の手法などを用いた数多くの研究が行われています. 当研究室では,これら人工知能・情報技術の手法そのものおよびその応用に関する研究を行っています. 例えば,これまで,機械学習を活用した研究,自然言語処理技術によるテキストデータの分析,ビッグデータを対象とした分析, 企業の技術開発に関する研究,社会ネットワーク分析を用いた企業間の関連性についての分析,企業の経営者に焦点を当てた研究などの分析を行っています.
コンピュータサイエンスの分野においてミクロのルールとマクロな挙動の関連性を分析する強力な手法として エージェントベースモデル(Agent-based Modeling)と呼ばれる手法が提案されています. 当アプローチは局所的なルールから系全体のマクロな挙動の説明を試みるボトムアップのアプローチであり,自律的に行動する主体(エージェント)が多数集まったマルチエージェントシステムを分析するのに適した手法です. エージェントベースモデルは幅広い分野において応用されており,このアプローチを社会科学の分野に適用した分析も数多く報告されています(Social Simulation). 当研究室においては,このようなエージェントベースモデルに関する研究を行っています.とりわけ近年は,金融をはじめとする社会科学を対象とした分析を行っています.